大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和42年(行コ)9号 判決

控訴人 横尾修作

被控訴人 村山税務署長

訴訟代理人 相川俊明 佐々木寛 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人が控訴人の昭和三七年分所得税について、昭和三八年一一月四日なした更正処分及び加算税、延滞税の各賦課処分をいずれも取消す。

訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張等

当事者双方の主張関係及び証拠関係は次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実欄の摘示と同一であるからこれを引用する。

(訂正関係〈省略〉)

一  主張関係

(一)  控訴人

1、2 〈省略〉

3 引湯権について(原判決四枚目表の(三)に関して)

租税特別措置法(昭和三八年法六五号による改正前のもの・以下同様)三五条四項一号の「土地の上に存する権利」は、当該土地の上に存する家屋の敷地に関する権利に限定されず、それ以外の権利も包含されるものと解すべきところ、本件引湯権は実質的にみて源泉地盤から他の土地へ温泉を引用する権利として、その利用地に対する権利と相即不離の関係にあるから右「土地の上に存する権利」に該当するものというべきである。このことは相続税財産評価に関する基本通達第二章第一節九が「土地の上に存する権利」に「温泉権」を、土地収用法五条が「その土地にある権利」に「温泉を利用する権利」をそれぞれ含ましめていることから容易に肯認されるところである。

4 譲渡所得の計算について

被控訴人は原判決添付物件目録記載の土地(以下本件譲渡土地という)の譲渡所得の算定にあたりその全部を宅地として評価しているが、本件譲渡土地には宅地のほか控訴人が前記譲渡時まで所有していた温泉の湧出する鉱泉地(六・六平方メートル)が含まれているところ、税法上鉱泉地と宅地とはその評価を異にするから右土地の譲渡所得の算出にあたつては、宅地と鉱泉地に区分して算出した昭和二八年一月一日現在の相続税評価額によるべきであり、したがつてまた宅地としての価額に温泉掘さく権の東根温泉協同組合買上料相当額を加算すべきであり、この方法によらない本件更正処分は違法である。

5 更正処分の手続について

被控訴人から控訴人に対する本件更正通知書には更正後の課税標準として宅地一、一四〇・七二平方メートル(三四五・〇七坪)(譲渡価額金二五六万五、〇〇〇円)、家屋四八一・八一平方メートル(一四五・七五坪)(譲渡価額金三三四万五、二七〇円)引湯権一五升(譲渡価額金三〇万円)、電話加入権一個(譲渡価額金一〇万円)と各記載されているが、そのうちの宅地、家屋に関しての記載はいずれも「居住用部分」と「事業用部分」との「共用部分」を右「居住用部分」に算入していないから正確妥当のものではなく、したがつてそれは、更正通知書には更正後の課税標準等及び税額等を記載すべき旨規定する国税通則法二八条二項二号に違反するもので、右更正通知書としての要件を欠くから、右更正処分自体無効であるというべきである。

(二)  被控訴人

1 〈省略〉

2 引湯権について

租税特別措置法三五条において、居住用財産の買換えにつき課税上の優遇措置を講じている立法の趣旨は、国民の住宅建設を促進しその住宅事情の緩和を図ることにあるから、同条の「土地の上に存する権利」の解釈もこの立法趣旨に従つてなさるべきであり、そうすると右「土地の上に存する権利」は地上権、地役権、賃借権等で居住用家屋の敷地の用に供される権利を指すものと解すべきであつて、東根温泉協同組合が管理する源泉から引湯してこれを利用するに過ぎない引湯権は、居住用家屋の敷地利用とは無関係であり、したがつて右「地の上に存する権利」に該当しないことが明らかである。

なお控訴人は相続税財産評価に関する基本通達では「土地の上に関する権利」に「温泉権」を、また土地収用法五条では「土地にある権利」に「温泉を利用する権利」を、それぞれ含ましめている旨主張するところ、右通達の趣旨は、相続税法の特質から相続可能な全ての諸財産を包括して説明しようとするにあり、そのため「土地の上に関する権利」に「温泉権」を含ましめたものであり、右収用法の立法趣旨は、土地を公益事業の用に供する必要から当該事業の妨げとなる土地にある全ての権利の収用等を認めることにあり、そのため「土地にある権利」に「温泉を利用する権利」を含ましめたものであり、右のいずれも、右租税特別措置法三五条とは立法趣旨を異にするから、同法とはその解釈適用を異にするのが当然である。したがつて右通達及び収用法の各規定等の存在をもつて、本件引湯権が右租税特別措置法三五条に該当するものと解することはできない。

3 譲渡所得の計算について

被控訴人が本件譲渡土地の譲渡所得の算定にあたりその全部を宅地として評価していることは認。

しかして控訴人は昭和三二年五月頃、その所有の鉱泉地の源泉を前記協同組合に有償譲渡し、これに代り本件引湯権を取得したものであり、しかも現況が宅地であつて温泉も湧出していないから宅地と評価したものである。なお温泉掘さく権の買上相当額は、右譲渡したときの譲渡収入金額に算入済であり、また鉱泉地の源泉の価額に相当する価額(鉱泉地の評価額から宅地の評価額を控除した価額)はその取得価額として右収入金額の必要経費に算入済であるから、本件引湯権の譲渡或いは本件譲渡土地の譲渡において取得価額に加算する必要はないものである。

4 更正処分の手続について

本件更正処分の通知書には更正後の課税標準等及び税額等の法定の記載事項はもれなく記載されているから同通知書にはなんらの瑕疵はない。したがつて本件更正処分は違法ではない。

二  証拠関係〈省略〉

理由

第一控訴人が昭和三七年三月二〇日その所有の原判決添付物件目録記載の物件(以下本件物件という)を代金一、〇〇〇万円で訴外五十嵐フクに譲渡し、同年四月一二日控訴人の居住の用に供する家屋等の財産を取得したうえ同家屋等を昭和三八年三月二七日居住の用に供したこと、控訴人は同月一二日被控訴人に対する昭和三七年分所得税の確定申告をするにあたり、本件物件の全部が租税特別措置法三五条一項の居住用財産に該当するとの前提のもとに、控訴人主張の如く、右譲渡代金から取得価額を控除した金額に基づいて同年分の譲渡所得金額を算出し、これをその他の所得金額に併せ同年分の所得申告額を合計金三二万四、九七〇円として申告し同金員を納税したこと、しかして被控訴人は昭和三八年一一月四日右申告に対し右譲渡にかかる本件物件中、本件譲渡土地のうちの一、一四〇・七二平方メートル(三四五・〇七坪)、本件譲渡建物のうちの四八一・八一平方メートル(一四五・七五坪)及び引湯権と電話加入権は租税特別措置法三五条一項に該当しないとして、更に納付すべき本税の額を金二七万七、二〇〇円と更正する旨の、過少申告加算税の額を金一万三、八五〇円及び右本税の額に対し同年三月一六日から納入日まで日歩金二銭の割合による利息を各賦課する旨の、各処分決定をなし、その旨控訴人に通知したこと、そこで控訴人は同年一二月三日被控訴人の右各処分決定に対し異議を申し立てたところ、同申し立てにつき被控訴人において、審査請求として取扱うことを適当と認め、かつ、右取扱いについて同月一七日控訴人が同意したため同日同申し立ては仙台国税局長に対する審査請求とみなされるに至つたこと、右請求に対し仙台国税局長は昭和三九年一二月二三日請求棄却の裁決をなし、同裁決は同月二七日控訴人に送達されたことはいずれも当事者間に争いがない。

第二そこで以下被控訴人のなした本件更正処分及び過少申告加算税等賦課処分の適否につき検討する。

一  本件譲渡土地及び建物の全部が租税特別措置法三五条一項の「居住用財産」に該当するか否かについて。

当裁判所は本件譲渡土地及び建物の各一部のみが租税特別措置法三五条一項の居住用財産に該当し、したがつて殊に本件譲渡建物は、前記譲渡当時、事業用兼居宅用のいわゆる兼用家屋であると判断するが、その理由は次のとおり付加訂正するほかは原判決理由二の(二)の1と同一であるからこれを引用する。

(一)、(二) (訂正関係〈省略〉)

二  本件譲渡建物のうちの居住用部分の範囲について。

当裁判所は被控訴人が本件更正処分をするにあたりなした、本件譲渡土地建物についての居住用部分の範囲の認定は違法ではないものと判断するが、その理由は次のとおり付加訂正するほかは原判決理由二の(二)の2と同一であるからこれを引用する。

(一)、(二) (訂正関係〈省略〉)

三  本件引湯権が租税特別措置法三五条四項一号の「当該土地の上に存する権利」に該当するか否かについて。

当裁判所は本件引湯権は租税特別措置法三五条四項一号の「当該土地の上に存する権利」に該当しないものと判断するがその理由は次のとおり付加するほかは原判決理由二の(二)の3と同一であるからこれを引用する。

控訴人は租税特別措置法三五条四項一号所定の「当該土地の上に存する権利」は当該土地の上に存する家屋の敷地に関する権利に限定して解釈すべきではなく、これは相続税財産評価に関する基本通達が「土地の上に存する権利」に「温泉権」を、土地収用法五条が「その土地にある権利」に「温泉を利用する権利」をそれぞれ含ましめていることからみても明らかである旨主張する。

しかして右基本通達の趣旨は、相続税法の特質から相続可能な全ての諸財産を包括して課税の対象とし、かつ、その対象の評価の正確性を期し、もつて課税の適正化を図ることにあり、そのため「土地の上に関する権利」に「温泉権」を含ましめたものであり、右収用法の立法趣旨は、土地を公益事業の用に供する必要から、当該事業の妨げとなる土地にある全ての権利を消滅せしめ或いは制限し、もつて収用の実を図ることにあり、そのため「土地にある権利」に「温泉を利用する権利」を含ましめたものである。これに対し租税特別措置法三五条において居住用財産につき課税上の優遇措置を講じた立法趣旨は国民の住宅建設を促進してその住宅事情の緩和を図ることにあつて右基本通達及び収用法の立法趣旨等と全く異質のものであることが明らかであつて、右措置法において右収用法等の如き温泉権若しくは温泉を利用する権利を含ましめる必要性は全く見出し得ないものというべきである。したがつて右基本通達及び収用法の規定等の存在は、租税特別措置法三五条四項一号の「当該土地の上に存する権利」に本件引湯権が含まれるものと解釈すべき根拠にはなり得ないものというべきである。よつて控訴人のこの点に関する主張は採用できない。

四  譲渡所得の計算方法に関する瑕疵の存否について。

被控訴人が本件譲渡土地の譲渡所得の算定にあたりその全部を宅地として評価したことは当事者間に争いがない。

控訴人は本件物件中の鉱泉地二筆を右のとおり宅地と評価したのは違法である旨主張する。

〈証拠省略〉によると、控訴人は本件物件中の鉱泉地二筆(六・六平方メートル・二坪)を所有していたところ、昭和三二年五月二六日同鉱泉地の源泉を前記協同組合に有償譲渡し、これに代わり、同組合から本件引湯権を取得したこと、右鉱泉地は同年七月三〇日地目が宅地に変更され、昭和四三年八月二九日その旨の登記手続がなされたこと、右鉱泉地の現況は宅地であり、前記譲渡当時同鉱泉地から温泉は湧出しておらず、また同鉱泉地を譲り受けた前記訴外五十嵐フクには同鉱泉地の所在場所を認識することができなかつたこと、等の事実が認められ、これに反する証拠はない。右認定の事実によると、右鉱泉地はその譲渡当時、登記簿上の記載はともかくとして、実質的には宅地となつていたものと認めるのが相当であり、したがつて被控訴人がこれを宅地と評価したことは相当であつて違法の点は存しないものというべきである。よつて控訴人のこの点に関する主張は失当である。

五  更正処分の手続に関する瑕疵の存否について。

控訴人は本件更正処分の通知書の更正後の課税標準等及び税額等の記載が正確妥当なものではないから右通知書は国税通則法二八条二項二号に違反し、したがつて本件更正処はそれ自体無効である旨主張する。

しかして国税通則法二八条二項は、更正処分の手続面における形式を規定したものであるから、その記載内容の正否にかかわらず、所定の事項についての記載がなされていればその要件として欠缺はないものと解すべきところ、〈証拠省略〉によると、本件更正処分の通知書には同項二号所定の更正後の課税標準等及び税額等が記載されていることが認められるから、右通知書には同条項違反の瑕疵はないものというべきである。控訴人の所論は結局本件譲渡建物及び土地について被控訴人に前記「居住用部分」の範囲の認定についての過誤が存することを前提とした課税標準等の算定等実質的違法を主張するものであるところ、右範囲の認定に違法の点が存しないことは前記認定のとおりであるから同主張は採用できない。

六  右以外に本件において本件更正処分及び過少申告加算税等賦課処分を取消すべき違法の点は認め得ない。

右によると被控訴人がなした本件更正処分及び過少申告加算税等の賦課処分はいずれも適法であるというべきである。

第三以上の判断によると控訴人の被控訴人に対する本訴請求は失当としてこれを棄却すべきである。

よつて右と同一結論の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民訴法三八四条一項によつてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井口源一郎 伊藤俊光 佐藤貞二)

別紙(一)、(二)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例